映画『ブラック・レイン』は本当につまらない？松田優作と高倉健の存在が際立つ理由

1989年に公開された映画『ブラック・レイン』は、リドリー・スコット監督によるアクション・サスペンス作品です。

主演はマイケル・ダグラス、そして日本からは高倉健と松田優作が参加し、日米の文化的対立や葛藤を描いた異色のハリウッド映画として話題を集めました。

物語は、ニューヨーク市警の刑事ニック（マイケル・ダグラス）が、日本で起こった殺人事件の容疑者・佐藤（松田優作）を大阪に護送するところから始まります。

彼の行動を監視する日本の刑事・松本（高倉健）と協力しながら、複雑な事件に巻き込まれていくという展開です。

この作品は当時のハリウッドが描いた“日本”という側面でも注目されました。

日本とアメリカ、それぞれの価値観の違い、警察制度の違い、さらにはヤクザ社会などが描かれ、日本人としてはさまざまな感情を抱く映画とも言えるでしょう。

「つまらない」と感じる人がいる理由とは？

『ブラック・レイン』は一部の視聴者から「つまらない」という評価を受けることがあります。

その理由としてまず挙げられるのが、物語のテンポと演出です。アクション映画を期待して観た人にとっては、全体的に重く、テンポがゆっくりに感じられるかもしれません。

また、日本を舞台にしているとはいえ、描かれる日本文化やヤクザ像がステレオタイプに見えるという批判も少なくありません。

リドリー・スコット監督ならではのスタイリッシュな映像表現は評価される一方で、キャラクターの心理描写や物語の深みには欠けると感じる方もいます。

さらに、1980年代の価値観が色濃く反映されているため、現代の感覚からすると古臭く感じられる点も否定できませんハリウッド映画としての派手さや爽快感を期待すると、どうしても肩透かしをくらったような印象を受けるのでしょう。

 松田優作の圧倒的存在感と“遺作”としての重み

この映画で最大の存在感を放っていたのが、やはり松田優作です。

演じたのは冷酷非道なヤクザ・佐藤という役で、彼の狂気じみた演技は国内外で大きな注目を集めました。実はこの作品、松田優作の遺作となっており、撮影当時すでに彼は膀胱癌を患っていたことが後に明かされています。

死を目前にしながらも、圧倒的なエネルギーでカメラの前に立ち続けた彼の姿勢は、まさに“プロフェッショナル”そのものでした。

リドリー・スコット監督やマイケル・ダグラスも、松田の演技力と集中力に驚嘆したと語っています。

映画自体の評価は分かれるかもしれませんが、松田優作の演技に関しては異論の余地がないほど評価が高いです。

むしろ「映画は微妙だったけど、松田優作はすごかった」という声が多く聞かれるほど。彼の鬼気迫る演技は、今なお多くの映画ファンの記憶に残っています。

 高倉健の静かな凄みと国際的存在感

松田優作とは対照的に、静かで内に秘めた力強さを見せていたのが高倉健です。

彼が演じたのは、大阪府警の刑事・松本。物語の中では、ニューヨーク市警の荒っぽいニック刑事とコンビを組み、文化や価値観の違いに翻弄されながらも徐々に信頼を築いていく役どころです。

高倉健は寡黙なキャラクターを多く演じてきましたが、本作でもその持ち味が最大限に活かされています。

言葉数は少なくとも、眼差しや立ち居振る舞いだけで多くを語る演技は、ハリウッドの現場でも強い印象を残しました。

リドリー・スコット監督も彼に深い敬意を表しており、高倉健がいたからこそこの映画が成立したと言っても過言ではありません。

国際的な舞台で一歩も引かないその佇まいは、日本人俳優としての誇りを感じさせてくれます。

『ブラック・レイン』を再評価する視点

時代が変わった今だからこそ、『ブラック・レイン』を別の角度から再評価する価値があります。

当時は「ハリウッドが描く日本」に違和感を覚えた方も多かったでしょうが、逆に言えばそれは貴重な“外国から見た日本”の記録でもあります。

また、日本とアメリカという二つの文化がぶつかり合う様子は、現代にも通じるテーマを含んでいます。

国際協力や多文化理解といった点では、かなり先進的な描写とも言えるでしょう。

そして何より、松田優作と高倉健という二人の名優が、国境を越えて同じ画面に収まっているという事実。

それ自体が映画史に残る出来事です。彼らの演技を目に焼き付けるという意味でも、この作品は今なお“観る価値のある映画”だと感じます。

『ブラックレイン』を観たあなたに！

『ヒート』（1995年）🎬 プライムビデオで見る 🍿📺

ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノという二大巨頭が対峙するクライムサスペンス。犯罪者と刑事、それぞれの信念を持った男たちのぶつかり合いは、『ブラックレイン』に通じる熱さと渋さを感じさせます。静かな緊張と爆発的なアクションの緩急が絶妙で、2時間半があっという間。人間ドラマとサスペンスを両方味わいたい方にはぴったりの一作です。

『交渉人』（1998年）🎬 プライムビデオで見る 🍿📺

サミュエル・L・ジャクソンとケヴィン・スペイシーが火花を散らす心理戦が見どころのサスペンスアクション。警察内部の腐敗、信頼と裏切りが絡むストーリーは、『ブラックレイン』のような人間同士の緊迫感に満ちています。セリフの応酬がとにかくスリリングで、最後まで目が離せません。人間関係のリアルな描写を重視したい方にはぜひ観てほしい一本です。

『硫黄島からの手紙』（2006年）🎬 プライムビデオで見る 🍿📺

クリント・イーストウッドが日本側の視点から描いた戦争映画で、高倉健が体現してきた「静の美学」に通じるものがあります。言葉少なに、それでも誇りを持って戦う兵士たちの姿は胸を打ちます。アメリカ人監督が描いた日本という点でも、『ブラックレイン』と共通しています。国を超えて伝わる人間ドラマの深さを感じたい方におすすめです。

『沈黙 -サイレンス-』（2016年）🎬 プライムビデオで見る 🍿📺

マーティン・スコセッシ監督が日本を舞台に描いた静謐で深いドラマです。外国人が捉えた日本の風景、文化、信仰の葛藤が静かに、でも力強く描かれています。『ブラックレイン』と同じく、異文化の衝突と理解がテーマになっていて、日本人として考えさせられることが多い作品です。映像も音もセリフも、すべてがじっくりと心に染み込んでくるような作品です。

 まとめ：つまらない？いや、観る価値はある

確かに『ブラック・レイン』には、今の時代のエンタメ感覚では「つまらない」と感じられる部分があるかもしれません。

しかし、それはこの映画が描こうとしたテーマが、派手さではなく“人間同士のぶつかり合い”だったからではないでしょうか。

松田優作の凄み、高倉健の静かな強さ、その両者の対比と共鳴があるからこそ、この作品は特別な輝きを放っています。

アクション映画として見るのではなく、文化や人間ドラマに注目して観ると、その深みがじわじわと感じられてきます。

「つまらない」という意見ももちろんあります。

でも、それだけでこの映画を見逃すのはもったいない。むしろその“つまらなさ”の中に、今だからこそ見えてくるものがあるかもしれません。