1962年6月11日、アメリカ・サンフランシスコ湾に浮かぶ孤島アルカトラズで、
「脱出不可能」と呼ばれた刑務所から3人の囚人が姿を消しました。
彼らはフランク・モリス、ジョン・アングリン、クラレンス・アングリン。
そしてこの実話をもとに生まれたのが、クリント・イーストウッド主演の名作映画
『アルカトラズからの脱出(Escape from Alcatraz)』(1979年) です。
本記事では、
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実際の脱獄事件の「その後」に迫り、
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映画オリジナルキャラクター「バッツ」はなぜ脱出を決意したのか?
を中心に、史実と映画の両面から真実を丁寧に掘り下げます。
🏝️ アルカトラズからの脱出とは?映画と実話の関係

映画『アルカトラズからの脱出』の概要と制作背景
映画『アルカトラズからの脱出』の概要と制作背景
1979年、ドン・シーゲル監督とクリント・イーストウッドが再タッグを組み、
実際に起きたアルカトラズ脱獄事件を基にした映画を公開しました。
この作品は実話の要素を忠実に再現しながらも、
登場人物の一部は架空のキャラクターとして構成されています。
中でも“バッツ”という青年囚人は、映画オリジナルの存在です。
彼は、実際の事件で脱獄計画に加わるも直前で諦めた人物(アラン・ウェスト)をモデルにしており、
映画では「人間の弱さと勇気の象徴」として描かれています。
実際の脱獄事件──3人の男たちの挑戦
1962年6月11日深夜。
アルカトラズ刑務所の囚人3人が、スプーンやドリルの部品などを使って
換気口を少しずつ削り、壁の裏の通路を通って脱出しました。
彼らは雨合羽を繋ぎ合わせて手製のいかだを作り、
夜の海へと漕ぎ出したとされています。
彼らの房には「寝ているように見せかけるための人形の頭部」が残されており、
看守は翌朝まで脱出に気づかなかったと記録されています。
この事件はアメリカ全土を震撼させ、FBIが17年間にわたり捜査を続けました。
「脱出不可能」と呼ばれた理由
アルカトラズ刑務所はサンフランシスコ湾の中央、
水温約12℃の冷たい潮流に囲まれています。
距離は本土まで約2.4km──泳ぎ切るのは至難の業。
脱獄が成功しても、低体温症で命を落とす可能性が高いとされていました。
そのため、当時のFBIは「彼らは湾内で溺死した」と結論づけています。
しかし、遺体は一つも発見されませんでした。
🔹バッツはなぜ脱出を決意したのか?映画が描いた人間の本能
架空の人物「チャーリー・バッツ」の意味
映画に登場するバッツ(演:ラリー・ハンキン)は、
実在した脱獄犯アラン・ウェストをモデルにしたキャラクターです。
ウェスト本人は、脱出計画に加わりながらも、
壁の穴が狭すぎて脱出できなかったため島に取り残されたと言われています。
映画ではその“失敗した囚人”の人間像を象徴的に描くために、
「バッツ」という人物が創作されました。
臆病で内向的な青年が、自由を求める仲間たちの姿に触発され、
やがて脱獄を決意する──という流れは実話を超えたドラマ性を生み出しています。
絶望と希望の狭間で揺れる心理
バッツは、狭い独房で生きるうちに「生きる意味」を失いかけていました。
しかし、モリスの冷静な知性と脱出計画に触れることで、
彼の中に“もう一度生き直す”という衝動が芽生えます。
彼が脱出を決意したのは、
「逃げるため」ではなく「自分を取り戻すため」。
つまり、彼の行動は“生存本能としての自由”を象徴しています。
バッツの物語が伝えるもの
映画で描かれるバッツの変化は、
人間の“弱さ”と“勇気”の間にある曖昧な領域を体現しています。
脱出は単なる逃亡ではなく、
閉ざされた世界における「心の解放」でもある──
それが『アルカトラズからの脱出』という作品が
半世紀以上にわたって人々の心を掴み続ける理由です。
🕵️ 実話のその後──脱獄犯たちは生き延びたのか?
FBIの結論「溺死説」と、その裏に残る疑問
FBIの公式見解では、3人は海流に飲まれて死亡したとされています。
しかし、潮の流れを再現した後年の調査では、
条件次第では泳ぎきることも不可能ではなかったことが判明しています。
当時の潮流データを基にしたコンピューター解析(2014年の研究)では、
「特定の時間帯に出航すれば本土に到達できた可能性がある」と報告されました。
生存説とその根拠──写真・手紙・証言
複数の目撃情報や写真が、後年になって話題を呼びました。
1980年代、ブラジルで撮影された写真に写る男性が
アングリン兄弟に酷似していたとして、FBIが鑑定を行ったケースもあります。
さらに2013年には、「私はフランク・モリスだ」と名乗る匿名の手紙が
サンフランシスコ警察に届いたという報道もありました。
筆跡とDNAの一致は確認されなかったものの、
事件の“その後”が依然として謎であることを印象づけました。
脱出の真相はいまだ未解明
FBIは1979年に正式に捜査を終了しましたが、
米連邦保安局(U.S. Marshals Service)は今も事件を「未解決」として扱っています。
つまり、彼らが生き延びた可能性は、理論上ゼロではないのです。
🎥 映画と現実──「自由」の意味を問う物語
映画が描く「静かな反抗」と「希望」
映画のラストシーンでは、霧の中に消えていく小舟が映し出されます。
その結末は明言されず、観客に想像を委ねる構成。
それこそが、実際の事件と同じ“未解決の余韻”なのです。
この曖昧な終わり方が、「自由とは何か」「希望とはどこにあるのか」を
観る者に問いかける力を持っています。
現実の事件が残した教訓
アルカトラズ脱出事件は、「絶対的な管理社会」に対する警鐘としても語られます。
閉ざされた空間における人間の尊厳と知恵、
そしてどんな状況でも“希望”を捨てない意志。
それらは、バッツという架空の囚人を通じて
より普遍的な人間ドラマとして描かれたのです。
🧭 まとめ:バッツが問いかける「自由」とは何か
バッツは実在しない囚人ですが、彼が象徴する“自由への渇望”は
実在の脱獄犯たちと同じ人間的本能でした。
彼らが生き延びたのか、海に消えたのか──
その答えは今も霧の中にあります。
しかし、確かなのは一つ。
「人間は、どんな鉄格子の中でも、自由を夢見る存在だ」ということ。
それこそが『アルカトラズからの脱出』の永遠のテーマであり、
今も多くの人を惹きつける理由なのです。
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