『サウンド・オブ・ミュージック』の時代背景を解説|名曲に込められた「伝えたいこと」

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美しいアルプスの山々と、心躍る音楽。一見すると明るく楽しいミュージカル映画に思える『サウンド・オブ・ミュージック』ですが、その根底には「ナチス台頭」という非常に重く、残酷な歴史の現実が横たわっています。

なぜトラップ大佐は愛する故郷を捨てなければならなかったのか?名曲『エーデルワイス』にはどんな祈りが込められていたのか?

 

今回は、作品の裏側にある時代背景を紐解き、この物語が現代の私たちに今なお伝え続けている「真のメッセージ」について、どこよりも深く、ボリュームたっぷりに考察します。


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1. 物語の鍵を握る時代背景|オーストリア併合(アンシュルス)とは

物語の舞台は1938年のオーストリア。この時期、ヨーロッパは大きな激動の中にありました。映画の中で描かれる「不穏な空気」の正体を知ることで、作品の深みは一気に増していきます。

当時の歴史的背景:アンシュルス(Anschluss)

1938年3月、ナチス・ドイツが隣国オーストリアを軍事進駐によって事実上吸収・合併した出来事を指します。当時、ドイツのヒトラー(オーストリア出身)は「大ドイツ主義」を掲げ、同じドイツ語圏であるオーストリアを支配下に置こうと画策していました。

平和な一家に忍び寄るナチス・ドイツの影

映画の前半、マリアと子供たちの交流は非常に明るく描かれますが、後半になるとその景色は一変します。ザルツブルクの美しい街並みには、突如としてナチスの象徴である「スワスチカ(鍵十字)」の旗が掲げられ、隣人たちが次々とナチスへの支持を表明していきます。

特に象徴的なのは、執事のフランツや、長女リーズルの恋人ロルフの変化です。昨日までの友人が、今日からは「思想の監視者」になる。この息の詰まるような恐怖こそが、当時のオーストリアを包んでいた現実でした。

【表:サウンド・オブ・ミュージックに関連する歴史年表】

出来事 作品内での描写
1927年 大佐とマリアが結婚 映画では出会って間もなく結婚
1938年3月 アンシュルス(オーストリア併合) ハンス・ツェラーによる強い政治的圧力
1938年中盤 トラップ一家の亡命 音楽祭を経て、アルプスを越えるラスト

なぜトラップ大佐は頑なに拒絶したのか

元海軍の英雄であるトラップ大佐にとって、ナチスに従うことは「オーストリアという祖国を裏切ること」と同義でした。彼は「新しいオーストリア」という名の、ナチスによる独裁支配を断固として認めませんでした。

大佐の葛藤と信念

周囲が「生き残るためには仕方ない」「ナチスに従えば経済的にも安定する」と妥協していく中で、彼は自分の家をナチスの旗で飾ることを拒み、ドイツ軍への召集令状(再就役の命令)を突きつけられた際、亡命を決意します。彼が守りたかったのは、単なる家族の安全だけでなく、「自分自身の良心と誇り」だったのです。彼は自分の地位や財産よりも、魂の自由を優先しました。

2. 名曲『エーデルワイス』に込められた本当の意味

本作を象徴する歌といえば『エーデルワイス』ですが、この曲が歌われる2つのシーンには、非常に重要な意味が込められています。この歌の本当の意味を理解すると、映画のクライマックスの感動は10倍にも膨らみます。

豆知識:実は『エーデルワイス』はオーストリアの古い民謡ではなく、この映画(舞台)のためにリチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン2世によって作られたオリジナル曲です。この曲は、ハマースタイン2世が亡くなる前に書いた最後の歌詞としても知られています。

単なる劇中歌ではない、祖国への愛と抵抗のシンボル

1回目に歌われる際は、大佐が子供たちと心を通わせる「家族の愛」の象徴として登場します。しかし、2回目——音楽祭のステージで、ナチスの将校たちを前にお披露目される『エーデルワイス』は、全く異なる意味を持ちます。

「故郷を忘れないで」という祈り

エーデルワイスは、アルプスの高地に咲く「清純」「勇気」を象徴する高山植物です。大佐は、ナチスに支配され、変わり果てようとしているオーストリアに向け、「かつての美しく誇り高き祖国を忘れないでほしい」という願いを込めて歌いました。歌詞にある「Bless my homeland forever(私の祖国を永遠に祝福したまえ)」という一節は、文字通り彼の命がけの告別メッセージでした。

無言の抵抗:音楽祭の奇跡

歌の途中で、祖国への想いから感極まり、声が詰まってしまう大佐。それを助けるマリアと子供たちの歌声、そして会場を包む観客の合唱。あのシーンは、暴力や権威に対して、国民が音楽によって心を一つにし、「静かなる抵抗」を示した歴史的瞬間として描かれています。銃や爆弾ではなく、歌声がナチスの圧制に立ち向かう——これこそが本作のハイライトと言えるでしょう。


3. この作品が現代に「伝えたいこと」を考察

公開から半世紀以上経った今、この映画が私たちに問いかけてくるメッセージは、ますます輝きを増しています。単なる「昔の物語」で終わらせない、現代に通じる3つの教訓を深掘りします。

① 「自分の良心」に従う勇気

物語の中で、トラップ大佐は地位も名誉も、そして美しい屋敷もすべて捨てて逃亡することを選びました。現代社会においても、周囲の同調圧力に負けそうになる瞬間は多々あります。

「間違っているものには、Noと言う」。周囲に流されることなく、自分の内なる声(良心)に従うことの難しさと、その先にある尊さを、大佐の背中が教えてくれます。それは自分を失わずに生きるための、最も過酷で、最も価値のある決断です。

② 困難な時代に「歌(希望)」が果たす役割

マリアがトラップ一家にもたらしたのは、単なるドレミの音階ではありません。それは、どんなに厳しい状況でも「喜びを見つける力」でした。

心のシェルターとしての音楽

雷を怖がる子供たちに「私のお気に入り(My Favorite Things)」を歌って不安を吹き飛ばしたように、ナチスの脅威が迫る中でも、歌を歌うことで家族が一つになり、恐怖に打ち勝ちました。これは、音楽やアートが単なる娯楽ではなく、人間の心を救い、自由を繋ぎ止めるための強力な武器になり得るという力強いメッセージです。

③ 家族の絆という「シェルター」

国が崩壊し、社会が歪んでいく中で、最後まで一家を守ったのは「家族の絆」でした。映画のラスト、険しい山を越えていく一家の姿は、新しい人生への第一歩であると同時に、「愛する人々さえいれば、どこへ行ってもそこが家になる」ことを示しています。物理的な家は失っても、心の家(家族)があれば希望は消えないのです。


結論:音楽映画の枠を超えた、自由への讃歌

『サウンド・オブ・ミュージック』が今もなお世界中で愛されているのは、単にメロディが美しいからではありません。そこには、「暗い時代にあっても、音楽と愛を武器に、自分たちの信念を守り抜いた人々の真実」があるからです。

記事のまとめ:

  • 物語の背景には「ナチスによるオーストリア併合」という過酷な現実がある。
  • 名曲『エーデルワイス』は、失われゆく祖国への祈りと抵抗のシンボルである。
  • 「良心に従う勇気」「希望としての音楽」「家族の絆」こそが、本作が伝えたかった核心である。

美しい山々を越えて旅立つ一家の姿は、どんな時代にも存在する「不自由さ」や「困難」から抜け出そうとする、全人類へのエールでもあります。次に『ドレミの歌』や『エーデルワイス』を聴くときは、その旋律の裏側にある、一家の勇気ある決断に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。