映画『ノッティングヒルの恋人』を見終わったあと、あの一番最後のセリフの意味をもう一度噛みしめたいと思って検索された方も多いのではないでしょうか。
ジュリア・ロバーツ演じるアナとヒュー・グラント演じるウィリアムがたどり着いた結末、そこで交わされた英語のセリフには、単なる言葉以上の深いニュアンスが込められています。
日本語字幕では「永遠に」と訳されていたあの言葉ですが、英語の原文では一体何と言っていたのか、そしてその翻訳にはどのような意図があったのか、気になりますよね。この記事では、ラストシーンでアナが答えたセリフの英語本来の意味や、翻訳に込められた美学について深く掘り下げていきます。
- 物語のラストでアナが発した英語のセリフとその本来の意味
- 日本語字幕の「永遠に」という翻訳が評価される理由
- よく混同されがちな名言と本当の最後のセリフの違い
- セリフの後の映像に隠された妊娠やケーキの山羊などの演出
『ノッティングヒルの恋人』の最後のセリフと英語の意味

この映画のクライマックス、記者会見のシーンは何度見ても胸が熱くなりますよね。アナとウィリアム、二人の恋の行方が最終的にどうなるのか、その答え合わせとなるのがまさにこの場面です。
ここでは、映画の締めくくりとして語られた「最後のセリフ」にフォーカスし、その英語表現が持つ本来の意味や、日本語訳との絶妙な違いについて詳しく解説していきます。辞書的な意味を知ることで、あのラストシーンがより一層味わい深いものになるはずです。
物語の結末で発せられる英語「Indefinitely」
映画の正真正銘のラスト、つまり脚本上の最後のセリフとなるのは、アナ・スコットが記者からの質問に対して答えたたった一言、「Indefinitely」です。
この単語が発せられた瞬間、エルヴィス・コステロの名曲『She』のイントロが流れ出し、二人のその後を描くモンタージュへと繋がっていくため、これ以降にセリフはありません。では、この「Indefinitely」とは本来どういう意味なのでしょうか。
| 英単語 | 辞書的な直訳 | このシーンでの文脈 |
|---|---|---|
| Indefinitely | 無期限に、不明確に、未定で | (帰る予定はないので)ずっとここにいる |
辞書を引くと、「期限を定めずに」や「不明確に」といった、少し事務的で硬い意味が出てきます。ビザの滞在期間などが決まっていない状態を指す時によく使われる言葉ですね。
しかし、このシーンでのアナの表情を見てください。彼女はウィリアムを見つめながらこの言葉を発しています。つまり、「いつ帰るか決めていない(=帰る予定なんてない)」ということを、記者会見という公の場にふさわしいフォーマルな言葉で表現しつつ、事実上の「永住宣言」をしているわけです。
あえて「Forever(永遠に)」のようなありきたりなロマンチックな言葉を使わず、知的で少し含みを持たせた表現を選ぶあたりが、脚本のリチャード・カーティスらしいセンスだと感じられます。

日本語字幕の「永遠に」という翻訳の美学
日本のファンの間では、この「Indefinitely」に対して付けられた「永遠に」という字幕翻訳が名訳として語られることが多くあります。日本公開版の字幕は、戸田奈津子氏によるものとして知られています。
もしここを直訳通りに「無期限です」や「未定です」としていたらどうなっていたでしょうか。おそらく、アナの決意の固さが伝わりきらず、観客としては「またすぐに帰ってしまうのでは?」という一抹の不安を残したままエンドロールを迎えていたかもしれません。
ここがポイント
字幕の「永遠に」は、単語の辞書的な意味を超えて、アナの心の中にある「もう二度と離れない」という感情的な真実(Emotional Truth)を優先した意訳と捉えることができます。
英語本来の「期限を定めない」というニュアンスを、文脈を汲み取って「終わりのないこと=永遠」へと昇華させたこの翻訳は、映画のハッピーエンドを印象づける大きな役割を果たしていると言えるでしょう。
記者会見でアナが答えた滞在期間への質問
そもそも、なぜアナは最後に「Indefinitely」と答えたのでしょうか。そのきっかけとなったのは、記者会見の終盤で別の記者(ドミニク)から投げかけられた質問でした。
「アナ、英国にはいつまで滞在する予定ですか?(Anna, how long are you intending to stay here in Britain?)」
この質問は、映画の冒頭からずっと二人の間に横たわっていた「住む世界の違い」や「物理的な距離」に対する最後の問いかけでもあります。ハリウッドスターであるアナは常に移動する存在であり、ノッティングヒルに住むウィリアムはその場所に根を下ろす人物でした。
この質問に対して、アナが迷いなく答えたことで、彼女が「旅立つスター」としての生き方を手放し、ウィリアムと共にこの場所で生きていくことを選んだことが明確になります。ドミニクの質問は、最後の一言を引き出すための重要な役割を果たしていたと言えるでしょう。

ウィリアムによる愛の再確認とひざまずく問い
「Indefinitely」という最後のセリフに至る直前には、ウィリアム自身が記者になりすまして行う、実質的なプロポーズとも言えるやり取りがあります。
一度はアナを拒絶してしまったウィリアムですが、友人たちの助けもあってサヴォイ・ホテルの会見場に駆け込み、挙手して次のように質問します。
「もしサッカレー氏が、自分が愚かだったと悟り、ひざまずいて、考え直してくれないかと懇願したら、あなたはどうしますか?」
これに対し、アナは微笑んで「ええ、考え直すわ(Yes. I believe I would.)」と答えます。この時点で物語上の復縁は成立していますが、その後に続く「滞在期間」の質問と「Indefinitely」という答えが、二人の未来をより確かなものとして観客に示す役割を担っています。
多くの人が記憶する名言「私はただの女」との違い
「ノッティングヒルの恋人の最後のセリフ」と聞いて、別のセリフを思い浮かべる方も少なくありません。特によく挙げられるのが、次の名言です。
「忘れないで。私はただの女よ。好きな男の子の前に立って、愛してほしいと願っている。
(And don’t forget… I’m also just a girl, standing in front of a boy, asking him to love her.)」
非常に印象的なセリフですが、これはラストシーンではなく、ウィリアムの書店でアナが想いを告げ、一度拒まれてしまう場面で語られたものです。
注意点
「私はただの女…」はハッピーエンドの言葉ではなく、一度目の別れに繋がる切ない場面のセリフです。

誤解されがちな「Surreal but nice」との比較
もう一つ印象的な言葉に「Surreal but nice(非現実的だけど、素敵)」がありますが、これも最後のセリフではありません。
この言葉は初キスの後にウィリアムが口にし、記者会見ではアナが関係性を問われた際に引用します。二人だけが共有する思い出の言葉を、公の場でそっと返す演出であり、そこから「Indefinitely」へと繋がる流れは非常に計算された構成だと言えるでしょう。
『ノッティングヒルの恋人』の最後のセリフ後の映像演出

「Indefinitely」という言葉の後、映画はセリフを排した映像によるモンタージュに入ります。このエピローグには、二人の未来を示唆する多くの演出が盛り込まれています。
セリフの直後に流れる主題歌「She」の効果
最後のセリフと同時に流れ始めるのが、エルヴィス・コステロによる『She』です。
この曲の歌詞は、孤独を抱えながらも気高く生きる女性像を描いており、アナ・スコットのキャラクターと重なって聞こえます。ウィリアムの視点からアナを見つめているかのように受け取ることもでき、セリフのないエンディングで感情を補完する役割を果たしています。
結婚式のケーキに飾られたシャガールの山羊
結婚式のシーンでは、ウェディングケーキの上にバイオリンを弾く山羊の飾りが置かれています。これは中盤で語られたマルク・シャガールの絵画『花嫁』への明確なコールバックです。
豆知識
アナが語った「山羊がいなければ幸せではない」という言葉を受け、ケーキに山羊がいることは、二人が“本当の幸せ”に辿り着いたことを象徴しています。
妊娠したアナがベンチでくつろぐ最後の映像
ラストショットでは、公園のベンチで寄り添う二人が描かれます。アナのお腹はふっくらとしており、妊娠していることが視覚的に示されています。
「Indefinitely」という言葉が、単なる滞在期間ではなく、人生を共にする決意であることを、この映像が静かに裏付けています。
ラストシーンでウィリアムが読んでいる本の秘密
ベンチでウィリアムが読んでいる本は『コレリ大尉のマンドリン』です。この本は、当時ロジャー・ミッシェル監督が次回作として関わる予定だった作品の原作として知られています。
結果的に監督は同作を降板しましたが、この小道具は制作当時の状況を反映した、ささやかな内輪ネタとして語られることがあります。
『ノッティングヒルの恋人』の最後のセリフが残す余韻

こうして振り返ると、『ノッティングヒルの恋人』の結末は、「Indefinitely」という一言と、その後の映像演出によって静かな余韻を残しています。
言葉にしすぎない約束が、音楽と映像によって確かな未来として描かれる。その控えめな幸福感こそが、長年愛され続ける理由なのかもしれません。
※本記事の内容は、映画本編・字幕版・一般的に流通している制作情報をもとにまとめていますが、配給版や字幕の違いなどにより細部が異なる場合があります。正確な情報については、必ず公式作品や公式資料をご自身でご確認ください。
